舌白胎漸変黄胎
<舌の白胎、漸(ようや)く黄胎に変ず>
邪胃家にあれば黄胎になる。其の胎が古(フル)くなれば変じて沈香色になるなり。白胎のうちは下すべからず、黄胎は下すべしと呉氏の説なれども、黄になりたるとて直(ただち)に下しては早し。
白胎は薬汁などにても染まりて黄をなす。とくと胃に集まりたるを見て今日下さんと思わば、一日も延ばして下せば根を抜きたる如くになる。
舌黒胎
邪毒、胃に在りて上に薫騰して黒胎になる。黄胎日を経て焦げ色になる有り。津液も乾かず、潤澤にして居ながら軟黒胎をなすものあり。舌上乾燥して硬黒胎になるも有り。下後二三日を過て黒皮とれてくる。
又一種、舌上皆黒くて墨をくぐみし如くにて、胎をかけぬあり。此れは陰証の舌にて妊者などに多くあるものあり。下す舌に非ず。心得べし。
さて又下後、裏証皆去りても黒のとれぬ有り。胎皮の未だ脱せざるなり。再び下すべからず。第一の手段は裏証下すべきを以てこそ下すなり。
舌上胎もなく、況(いわん)や下証のなきを下して、舌反てところどころに黒を帯びる者は危うしと知るべし。
〇墨をくぐみし如きものは柴胡四逆なり。呉子が論ぜざる所なり。
舌芒刺
熱、津液を傷りて、此れ疫毒の最も重きものなり。急に下すべし。
老人、微疫にて下証なきものに、舌の乾燥して胎刺を生ずることあり。誤り混ずるなかれ。生脉散を用ゆべし。
舌裂
下剤、手延べにて血液枯燥して、此証になるもの多し。又、熱結傍流数日治せず、下は津液なく上は邪火熾(さかん)にして、此の証あり。
之を下せば裂けたる所は自然に治す。
舌短 舌硬 舌巻
皆邪気勝ち真気のかけたるなり。急に下せば毒去りて舌も舒(のび)るなり。
○ 予、度々舌巻て失音するを見るに難治なり。凶兆とす。小児は救いたること多し。
白砂胎
舌上白胎硬くして砂皮の如し。一名、水晶胎。是は白胎になる時、津液乾燥して胃実なれども黄に変ずることのならぬなり。急に下してよし。
白胎潤澤なるは表証とす。邪微なれば胎も微なり、邪盛んなれば胎積粉の如くとて、粉を布の袋に入れて布より泄れ出たるように見ゆるは、尚未だ下す可からず。
久しくしても黄にならずに外に下証そなわるは下すべし。ならば黄になるを待つなれども、第一の手段下証にあるところなり。
唇燥裂・唇焦色・唇口皮起・口臭・鼻孔如烟煤
胃家熱すれば此証あり。必ず下すべし。唇口皮倶にそり反るものは諸証へ較べ考うべし。血枯の時にも出る証なり。夫(そ)れは下すことならず。
鼻孔烟煤(えんばい)は疫毒胃実の甚だしきなり。えしゃく(会釈)もなく下すべし。
口燥渇
是れは下すにかぎりしことに非ず。下証あらば下すべし。下後、邪去り胃和すれば渇自ずから減ず。此れにて天花粉・知母などを用いて渇を止めんとするは手違いなり。さりながら大汗出て、脉も長洪にて渇するは下すべからず。白虎湯の証なり。
目赤・咽乾・気噴如火 ・小便赤黒涓滴作痛 ・小便極臭・揚手躑足脉沈而数
<目赤・咽乾・気噴(ふ)くこと火の如火し・小便赤黒、涓(わずか)に滴(したた)り痛みを作す ・小便極(きわめ)て臭し・手を揚(あ)げ足躑(たちどま)る、脉沈にして数。>
皆熱の極々強きなり。遠慮無く下すべし。
※涓滴(けんてき)…わずかにしたたる
※躑足(てきそく)… たちどまる、たたずむ
潮熱
胃実になると此の証をなし、承気の正証なれども下しがたきものあり。夫れは熱に血を帯びたると、神虚して譫語するものと、裏実に似て裏でなきとなり。
〇柴胡四逆の主となるもの有り。
喜大息
胃実すれば呼吸のつり合いあしく、胸膈痞悶して、ためいきす。
心下満 心下高起如ㇾ塊 心下痛 腹脹満 腹痛按ㇾ之愈痛 心下脹痛
<心下満・心下高く起きること塊の如し・心下痛 ・腹脹満 ・腹痛し之を按じて愈(いよいよ)痛む・ 心下脹痛>
以上皆胃実なり。下すべし。
頭脹痛
胃実して気の下りめぐらぬに有り。下せば頭痛やむなり。されども太陽初起の頭痛は下すものにあらず。
小便閉
大便秘結して気の暢びぬにあるは、下せば立ちどころに通ずるものなり。利水の薬を用ゆるは手違いなり。
〇転胞になりて閉ずるあり。巴豆膏を用ゆべし。
大便閉・転屎気極臭
更に下証有るは何の気づかいなしに下すべし。去りながら是れには血液の枯渇して通ぜぬもあり。無裏証は下すべからず。蜜煎導なり。
〇裏証あらば、又軽く朱明丸を用ゆることも有り。
大便膠閉
平日の持ち前に大便のとけて居る人あり。夫れは邪気胃に伝えて、但蒸して極臭の粘膠の如きを通ずる。死に至るまで結することなし。
邪強ければ愈(いよいよ)蒸して愈(いよいよ)粘(ネバ)り、 愈(いよいよ) 閉じて胃の気、下行することならず。邪気、出るの道路なし。下さざれば死す。
下して粘膠去れば、諸証除くなり。脇熱下利 熱結傍流 并(なら)びに、大便の條に詳(つまびらか)なり。
四逆・脉厥・体厥
陽気内鬱して外に布くことならぬなり。下すべし。下後に此の証あるは凶兆なり。補うに宜し。
発狂
胃実して陽気の盛んなるなり。之を下して虚煩狂に似たりと。狂汗とは心得て居るべきなり。
コメントを残す