鍼灸医学の懐

刺要論篇第五十.

梅雨と言えば紫陽花
 
 本篇は、刺鍼に際しての基本的な深度について述べられている。
 <素問・金匱真言論篇、宣明五気篇>に記されている五主(皮・肉・脉・筋・骨髄)を例に挙げて、どこを狙って針先を進めるのかを説いている。
 ちなみに、筆者は五主を目標に鍼を下すことは無い。
 それよりもむしろ、本篇を意訳したように、正邪抗争の場=病位と、生体の正気の状態と邪気の種類、その勢いを念頭にし、刺鍼後の深度は意識に無い。
 あるのは、瀉法であればいかにして邪気を捕まえるか、補法であればいかにして気を集めるか、のみである。
 だた刺鍼は、たとえ補法であっても生体を傷つけるので、「いかに浅く刺すか」「いかに数少なく刺すか」は、よくよく工夫が必要である。
 歴史的に禁鍼穴として禁忌の穴所があるが、いわゆる解剖学的な安全深度を意識しなくてもよい鍼法を目指すのが良いと筆者は考えている。
 諸氏は、如何。
 
原文意訳
 

黄帝が問うて申された。願わくば、刺法の要となることを聞きたいのであるが。

それに対して、岐伯が申された。

病には、浮沈。つまり正邪が争う病位がございます。従いまして刺法にも深浅がございまして、その時々において正邪の状態と病位を捉えて、浅すぎず深すぎず的確に刺すのであります。

病位を過ぎますと、裏であります身体内部の気が傷れますし、及ばざれば身体の浅いところに鬱滞を生じますので、そこに反って邪が聚るようになります。

病位をわきまえずに刺鍼しますと、良くしてあげようという気持ちで行ったとしても大きな害を与える大賊となってしまいます。そうなると五臓六腑の気は動じて正常に機能しなくなり、後々大病を生じてしまうのであります。

ですから、以下のように言うのであります。

病が毫毛・腠理に在るもの、皮膚に在るもの、肌肉に在るもの、脈に在るもの、筋に在るもの、骨に在るもの、髄に在るものがあります。

このようでありますから、毫毛・腠理を刺す場合は皮を傷ってはなりませんし、皮を傷ってしまいますと肺の気が動じて秋に温瘧の病となり、ゾクゾクとして振るえるかのような悪寒症状が現れます。

皮を刺す場合は、肉を傷ってはなりません。肉を傷ってしまいますと脾の気が動じ、四季の終わりの土用十二日間、合計七十二日に腹が脹満して煩悶する病が現れ、食欲もなくなります。

肉を刺す場合は、脉を傷ってはなりません。脉を傷ってしまいますと心の気が動じ、夏になりますと心痛の病が現れます。

脉を刺す場合は、筋を傷ってはなりません。筋を傷ってしまいますと肝の気が動じ、春になりますと熱を生じて筋がだらりと弛む病が現れます。

筋を刺す場合は、骨を傷ってはなりません。骨を傷ってしまいますと腎のきが動じ、冬になりますと腹が脹り、腰痛がする病が現れます。

骨を刺す場合は、髄を傷ってはなりません。髄を傷ってしまいますと次第に髄が溶け出して漏れてしまい、脛は重だるくなり、身体もまた重だるくて動けなくなる感覚が、いつまで経っても去らない病が現れます。

 
 
原文と読み下し

黄帝問曰.願聞刺要.
岐伯對曰.
病有浮沈.刺有淺深.各至其理.無過其道.
過之則内傷.不及則生外壅.壅則邪從之.
淺深不得.反爲大賊.内動五藏.後生大病.

黄帝問いて曰く。願わくば刺要を聞かん。
岐伯對して曰く。
病に浮沈有り、刺に淺深有り。各おの其の理に至りて、其の道を過ぐることなかれ。
これを過ぐれば則ち内傷り、及ばざれば則ち外に壅を生ず。壅すれば則ち邪これに從う。
淺深を得ざれば、反って大賊を爲し、内は五藏動じ、後に大病を生ず。

故曰.
病有在毫毛腠理者.
有在皮膚者.
有在肌肉者.
有在脉者.
有在筋者.
有在骨者.
有在髓者.

故に曰く。
病毫毛腠理に在る者有り。
皮膚に在る者有り。
肌肉に在る者有り。
脉に在る者有り。
筋に在る者有り。
骨に在る者有り。
髓に在る者有り。

是故刺毫毛腠理無傷皮.皮傷則内動肺.肺動.則秋病温瘧.泝泝然寒慄.
刺皮無傷肉.肉傷則内動脾.脾動.則七十二日四季之月.病腹脹煩.不嗜食.
刺肉無傷脉.脉傷則内動心.心動.則夏病心痛.
刺脉無傷筋.筋傷則内動肝.肝動.則春病熱而筋弛.
刺筋無傷骨.骨傷則内動腎.腎動.則冬病脹腰痛.
刺骨無傷髓.髓傷則銷鑠䯒酸.體解㑊然不去矣.

是の故に、毫毛腠理を刺すに皮を傷ることなかれ。皮傷るれば則ち内は肺を動ず。肺動ずれば則ち秋に温瘧を病み、泝泝(そそ)然として寒慄す。
皮を刺すに肉を傷ることなかれ。肉傷るれば則ち内は脾を動ず。脾動ずれば則ち七十二日四季の月、腹脹煩を病み、食を嗜なまず。
肉を刺して脉を傷ることなかれ。脉傷るれば則ち内は心動ず。心動ずれば則ち夏に心痛を病む。
脉を刺すに筋を傷ることなかれ。筋傷るれば則ち内は肝動ず。肝動ずれば則ち春に熱して筋弛むを病む。
筋を刺すに骨を傷ることなかれ。骨傷るれば則ち内は腎動ず。腎動ずれば則ち冬に脹腰痛を病む。
骨を刺すに髓を傷ることなかれ。髓傷るれば則ち銷鑠(しょうしゃく)して䯒(こう)酸し、體は解㑊(かいえき)然として去らざるなり。

Track Back URL

https://ichinokai.info/daikei/news/%e5%88%ba%e8%a6%81%e8%ab%96%e7%af%87%e7%ac%ac%e4%ba%94%e5%8d%81%ef%bc%8e/trackback/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

▲