鍼灸医学の懐

応下諸証 (1)

2.応下諸証

舌白胎漸変黄胎

 <舌の白胎、漸(ようや)く黄胎に変ず>

 邪胃家にあれば黄胎になる。其の胎が古(フル)くなれば変じて沈香色になるなり。白胎のうちは下すべからず、黄胎は下すべしと呉氏の説なれども、黄になりたるとて直(ただち)に下しては早し。

 白胎は薬汁などにても染まりて黄をなす。とくと胃に集まりたるを見て今日下さんと思わば、一日も延ばして下せば根を抜きたる如くになる。

舌黒胎

 邪毒、胃に在りて上に薫騰して黒胎になる。黄胎日を経て焦げ色になる有り。津液も乾かず、潤澤にして居ながら軟黒胎をなすものあり。舌上乾燥して硬黒胎になるも有り。下後二三日を過て黒皮とれてくる。

 又一種、舌上皆黒くて墨をくぐみし如くにて、胎をかけぬあり。此れは陰証の舌にて妊者などに多くあるものあり。下す舌に非ず。心得べし。

 さて又下後、裏証皆去りても黒のとれぬ有り。胎皮の未だ脱せざるなり。再び下すべからず。第一の手段は裏証下すべきを以てこそ下すなり。

 舌上胎もなく、況(いわん)や下証のなきを下して、舌反てところどころに黒を帯びる者は危うしと知るべし。

〇墨をくぐみし如きものは柴胡四逆なり。呉子が論ぜざる所なり。

舌芒刺

 熱、津液を傷りて、此れ疫毒の最も重きものなり。急に下すべし。

 老人、微疫にて下証なきものに、舌の乾燥して胎刺を生ずることあり。誤り混ずるなかれ。生脉散を用ゆべし。

舌裂

 下剤、手延べにて血液枯燥して、此証になるもの多し。又、熱結傍流数日治せず、下は津液なく上は邪火熾(さかん)にして、此の証あり。

 之を下せば裂けたる所は自然に治す。

舌短 舌硬 舌巻

 皆邪気勝ち真気のかけたるなり。急に下せば毒去りて舌も舒(のび)るなり。

○ 予、度々舌巻て失音するを見るに難治なり。凶兆とす。小児は救いたること多し。

白砂胎

 舌上白胎硬くして砂皮の如し。一名、水晶胎。是は白胎になる時、津液乾燥して胃実なれども黄に変ずることのならぬなり。急に下してよし。

 白胎潤澤なるは表証とす。邪微なれば胎も微なり、邪盛んなれば胎積粉の如くとて、粉を布の袋に入れて布より泄れ出たるように見ゆるは、尚未だ下す可からず。

 久しくしても黄にならずに外に下証そなわるは下すべし。ならば黄になるを待つなれども、第一の手段下証にあるところなり。

唇燥裂・唇焦色・唇口皮起・口臭・鼻孔如烟煤

 胃家熱すれば此証あり。必ず下すべし。唇口皮倶にそり反るものは諸証へ較べ考うべし。血枯の時にも出る証なり。夫(そ)れは下すことならず。

 鼻孔烟煤(えんばい)は疫毒胃実の甚だしきなり。えしゃく(会釈)もなく下すべし。

口燥渇

 是れは下すにかぎりしことに非ず。下証あらば下すべし。下後、邪去り胃和すれば渇自ずから減ず。此れにて天花粉・知母などを用いて渇を止めんとするは手違いなり。さりながら大汗出て、脉も長洪にて渇するは下すべからず。白虎湯の証なり。

目赤・咽乾・気噴如火 ・小便赤黒涓滴作痛 ・小便極臭・揚手躑足脉沈而数

<目赤・咽乾・気噴(ふ)くこと火の如火し・小便赤黒、涓(わずか)に滴(したた)り痛みを作す ・小便極(きわめ)て臭し・手を揚(あ)げ足躑(たちどま)る、脉沈にして数。>

 皆熱の極々強きなり。遠慮無く下すべし。

※涓滴(けんてき)…わずかにしたたる

※躑足(てきそく)… たちどまる、たたずむ

潮熱

 胃実になると此の証をなし、承気の正証なれども下しがたきものあり。夫れは熱に血を帯びたると、神虚して譫語するものと、裏実に似て裏でなきとなり。

〇柴胡四逆の主となるもの有り。

喜大息

 胃実すれば呼吸のつり合いあしく、胸膈痞悶して、ためいきす。

心下満 心下高起如ㇾ塊 心下痛  腹脹満  腹痛按ㇾ之愈痛  心下脹痛

 <心下満・心下高く起きること塊の如し・心下痛 ・腹脹満 ・腹痛し之を按じて愈(いよいよ)痛む・ 心下脹痛>

  以上皆胃実なり。下すべし。

頭脹痛

 胃実して気の下りめぐらぬに有り。下せば頭痛やむなり。されども太陽初起の頭痛は下すものにあらず。

小便閉

 大便秘結して気の暢びぬにあるは、下せば立ちどころに通ずるものなり。利水の薬を用ゆるは手違いなり。

〇転胞になりて閉ずるあり。巴豆膏を用ゆべし。

大便閉・転屎気極臭

 更に下証有るは何の気づかいなしに下すべし。去りながら是れには血液の枯渇して通ぜぬもあり。無裏証は下すべからず。蜜煎導なり。

〇裏証あらば、又軽く朱明丸を用ゆることも有り。

大便膠閉

 平日の持ち前に大便のとけて居る人あり。夫れは邪気胃に伝えて、但蒸して極臭の粘膠の如きを通ずる。死に至るまで結することなし。

 邪強ければ愈(いよいよ)蒸して愈(いよいよ)粘(ネバ)り、 愈(いよいよ) 閉じて胃の気、下行することならず。邪気、出るの道路なし。下さざれば死す。

 下して粘膠去れば、諸証除くなり。脇熱下利  熱結傍流   并(なら)びに、大便の條に詳(つまびらか)なり。

四逆・脉厥・体厥

 陽気内鬱して外に布くことならぬなり。下すべし。下後に此の証あるは凶兆なり。補うに宜し。

発狂

 胃実して陽気の盛んなるなり。之を下して虚煩狂に似たりと。狂汗とは心得て居るべきなり。

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