下後反痞
疫邪、心胃にあれば痞満す。下せば皆止む。なれども今返て痞するは虚なり。其人、外の病にて不足の所あるべし。
下すほど痞えるは行気破気の剤を用いば却て壊証とならん。參附養栄湯一服にて痞失するが如くならん。
若し下証あらば再び下せ。表に微熱あれども脉数ならず渇きもなく、下後痞返て甚だしきものを虚と為すと。
若し潮熱・口渇、脉数にして痞するものに此の薬を用いば忽ち害をなす。
下後反嘔
疫邪、心胸にありて胃口熱せば皆嘔す。下せば止むことなれども、今反て嘔するは胃気虚寒なり。少しの食にて呑酸などするは半夏藿香湯なり。
奪液無汗
温疫、下後脉沈、下証未だ除かず、再下して脉の浮なるは汗を発し解す。されども五三日、汗の発せぬは元より津液を亡したる人にはあることなり。
下証を数日手延にして純臭水を昼夜十数行下し、口燥・唇乾・舌裂けること断ずるが如し。医、傷寒論の協熱下利なりと心得違いて、葛根黄連黄芩湯を服するほど劇し得(うる)と。
診すれば熱結傍流なり。急に大承気を一服のませると宿糞を下すこと甚だ多し。色くされたる醤の如し。水膠のようにて甚だ臭きこと並ならず。此の夕より下りもやみぬ。
又明日より清燥湯一剤を与えたれども、脉は其のままで居る。又下したれば脉始めて浮になる。下証もとれて肌へも微熱をあらわす。此まさに汗して解すはずなれども、一向に汗なし。されども裏邪盡たり。食も少々ずつはすすむ。
半月ほどの後、急に戦汗して解したり。是れ全く数日の下にて枯燥し、飲食の進むこと半月にて津液漸く回りしなり。
さて脉浮にて身熱するは、汗より外に解すことなし。血燥き津枯れたるは、液より外に汗の出ることなし。
此の理はこころへ居くべきことなり。昔人、奪血無汗と説きたれども、今液を奪うを以て血液殊(こと)なりと雖も、枯燥則ち一なり。
本文は、近世漢方医学書集成18・19の「叢桂亭医事小言」(1)(2)を底本としたもので、できるだけ原書に忠実であるよう努めながら、以下のように改めてテキスト化したものである。
1.原文中のカタカナを平仮名に書き換え、現代語に近くなるようにした。
2.おくりがなは、現代文に通じるように改めた。
3. 原文中の漢文は、読み下し文に改めた。
4.文集のカタカナのルビは原文の記載をそのまま記載した。
5.筆者ルビは、ひらがなで記載した。
6.句点は、筆者の読みやすき所に置いた。
7.本文中の引用箇所は、筆者がこれを追記し括弧でくくって表記した。
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