辨厥陰病脉證并治 326~381条
第十二(厥利嘔噦附合一十九法方一十六首)
厥陰病の脉證、并(なら)びに治を辨ず。第十二。(厥利(けつり)嘔噦(おうえつ)を附す。合わせて一十九法、方一十六首)
【三二六条】
厥陰之為病、消渴、氣上撞心、心中疼熱、飢而不欲食、食則吐蚘、下之利不止。
厥陰之病為(た)るや、消渴(しょうかつ)し、氣上りて心を撞(つ)き、心中疼(いた)み熱し、飢えて食を欲せず、食すれば則ち蚘(かい)を吐し、之を下せば利止まず。
【三二七条】
厥陰中風、脉微浮為欲愈。不浮為未愈。
厥陰の中風、脉微浮なるとは愈えんと欲すと為す。浮ならざれば未だ愈えずと為す。
【三二八条】
厥陰病欲解時、從丑至卯上。
厥陰病解せんと欲する時は、丑(うし)從(よ)り卯(う)の上に至る。
【三二九条】
厥陰病、渴欲飲水者、少少與之愈。
厥陰病、渴して飲水せんと欲する者は、少少之を與えれば愈ゆ。
【三三〇条】
諸四逆厥者、不可下之。虛家亦然。
諸々の四逆して厥する者は、之を下すべからず。虛家も亦(ま)た然(しか)り。
【三三一条】
傷寒先厥後發熱而利者、必自止、見厥復利。
傷寒、先に厥し後(のち)發熱して利する者は、必ず自(おのずか)ら止む。厥を見(あら)わせば復た利す。
【三三二条】
傷寒、始發熱六日、厥反九日而利。凡厥利者、當不能食。今反能食者、恐為除中(一云消中)、食以索餅。不發熱者、知胃氣尚在、必愈。恐暴熱来出而復去也。後日脉之、其熱續在者、期之旦日夜半愈。
所以然者、本發熱六日、厥反九日、復發熱三日、并前六日、亦為九日、與厥相應、故期之旦日夜半愈。後三日脉之、而脉數、其熱不罷者、此為熱氣有餘、必發癰膿也。
傷寒、始め發熱すること六日、厥すること反って九日にして利す。凡(およ)そ厥利する者は當に食すること能わざるべし。今反って能く食する者は、恐らくは除中(じょちゅう)と為す。
食するに索餅(さくへい)を以て發熱せざる者は、胃氣尚(な)お在るを知る。必ず愈ゆ。恐らくは暴(にわ)かに熱来(きた)り出ずるも復た去らん。後日之を脉して、其の熱續(つづ)いて在る者は、之を期するに旦日(たんじつ)夜半に愈えん。然る所以(ゆえん)の者は、本(もと)發熱すること六日、厥とすること反って九日、復た發熱すること三日、前の六日を并(あわ)せて、亦(ま)た九日と為し、厥と相い應(おう)ず。故に之を期するに旦日夜半に愈ゆ。後三日之を脉して脉數(さく)、其の熱罷(や)まざる者は、此れ熱氣有餘(ゆうよ)と為す。必ず癰膿(ようのう)を發するなり。
【三三三条】
傷寒脉遲六七日、而反與黄芩湯徹其熱。脉遲為寒、今與黄芩湯復除其熱、腹中應冷、當不能食。今反能食、此名除中、必死。
傷寒脉遲なること六、七日、而(しか)るに反って黄芩湯を與えて其の熱を徹(てっ)す。脉遲は寒と為す。今、黄芩湯を與え復た其の熱を除く。腹中應(まさ)に冷ゆべし。當に食すること能わざるべし。
今反って能(よ)く食するは、此れを除中(じょちゅう)と名づく。必ず死す。
【三三四条】
傷寒、先厥後發熱、下利必自止。而反汗出、咽中痛者、其喉為痺。發熱無汗、而利必自止。若不止、必便膿血。便膿血者、其喉不痺。
傷寒、先に厥して後に發熱するは、下利必ず自(おのずか)ら止む。而(しか)るに反って汗出で、咽中痛む者は、其の喉痺(こうひ)を為す。發熱し汗無くして、利必ず自ら止む。若し止まざれば、必ず膿血を便す。膿血を便する者は、其の喉痺せず。
【三三五条】
傷寒一二日至四五日厥者、必發熱。前熱者、後必厥。厥深者熱亦深、厥微者熱亦微。厥應下之、而反發汗者、必口傷爛赤。
傷寒一、二日より、四、五日に至り、厥する者は、必ず發熱す。前に熱する者は、後必ず厥す。厥深き者は熱も亦(ま)た深く、厥微(び)の者は熱も亦た微なり。厥は應(まさ)に之を下すべし。而(しか)るに反って汗を發する者は、必ず口傷(やぶ)れ爛(ただ)れて赤し。
【三三六条】
傷寒病、厥五日、熱亦五日、設六日當復厥。不厥者自愈。厥終不過五日、以熱五日、故知自愈。
傷寒の病、厥すること五日、熱することも亦(ま)た五日、設(も)し六日には當(まさ)に復(ま)た厥すべし。厥せざる者は自(おのずか)ら愈ゆ。厥すること終(つい)に五日を過ぎずして、熱すること五日を以ての故に自ら愈ゆるを知る。
【三三七条】
凡厥者、陰陽氣不相順接、便為厥、厥者、手足逆冷者是也。
凡(およ)そ厥する者は、陰陽の氣相(あ)い順接せず、便(すなわ)ち厥を為(な)す、厥する者は、手足の逆冷する者是(こ)れなり 。
【三三八条】
傷寒脉微而厥、至七八日膚冷、其人躁、無暫安時者、此為藏厥、非蚘厥也。蚘厥者、其人當吐蚘、令病者靜、而復時煩者、此為藏寒。蚘上入其膈、故煩、須臾復止。得食而嘔、又煩者、蚘聞食臭出、其人常自吐蚘、蚘厥者、烏梅丸主之。又主久利。方一。
傷寒脉微にして厥し、七、八日に至りて膚(はだ)冷え、其の人躁(そう)にして、暫くも安き時無き者は、此れを藏厥(ぞうけつ)と為す。蚘厥(かいけつ)に非ざるなり。蚘厥なる者は、其の人當(まさ)に蚘(かい)を吐すべし。病者をして靜かにして復た時に煩せしむる者は、此れを藏寒(ぞうかん)と為(な)す。蚘上りて其の膈に入るが故に煩し、須臾(しゅゆ)にして復た止(や)む。食を得てして嘔し、又煩する者は、蚘食臭(しょくしゅう)を聞きて出ず。其の人常に自ら蚘を吐す。蚘厥なる者は、烏梅丸(うばいがん)之を主る。又、久利(きゅうり)を主る。方一。
〔烏梅丸方〕
烏梅(三百枚) 細辛(六兩) 乾薑(十兩) 黄連(十六兩) 當歸(四兩) 附子(六兩炮去皮) 蜀椒(四兩出汗) 桂枝(去皮六兩) 人參(六兩)
黄檗(六兩)
右十味、異擣篩、合治之。以苦酒漬烏梅一宿、去核、蒸之五斗米下、飯熟擣成泥、和藥令相得。内臼中、與蜜杵二千下、丸如梧桐子大。先食飲服十丸、日三服、稍加至二十丸。禁生冷、滑物、臭食等。
烏梅(うばい)(三百枚) 細辛(六兩) 乾薑(十兩) 黄連(十六兩) 當歸(四兩) 附子(六兩、炮じて皮を去る) 蜀椒(しょくしょう)(四兩、汗を出す) 桂枝(皮を去る、六兩) 人參(六兩)
黄檗(おうばく)(六兩)
右十味、異(こと)にして擣(つ)きて篩(ふる)い、合して之を治む。苦酒(くしゅ)を以て烏梅を漬けること一宿(いっしゅく)、核を去り、之を五斗米の下(もと)に蒸し、飯熟(いじゅく)せば擣きて泥(でい)と成し、
藥に和して相(あ)い得せしむ。臼中(きゅうちゅう)に内(い)れ、蜜とともに杵(つ)くこと二千下(げ)、丸ずること梧桐子大(ごどうしだい)の如くす。食に先だちて十丸を飲服し、日に三服す。
稍(やや)加えて二十丸に至る。生冷(せいれい)、滑物(かつぶつ)、臭食(しゅうしょく)等を禁ず。
【三三九条】
傷寒熱少微厥、指(一作稍)頭寒、嘿嘿不欲食、煩躁、數日、小便利、色白者、此熱除也、欲得食、其病為愈。若厥而嘔、胸脇煩滿者、其後必便血。
傷寒熱少なく微厥(びけつ)し、指頭(しとう)寒(ひ)え、嘿嘿(もくもく)として食を欲せず、煩躁す。數日にして小便利し、色白き者は、此れ熱除くなり。食を得んと欲するは、其の病愈ゆること為す。若し厥して嘔し、胸脇煩滿する者は、其の後必ず便血す。
【三四〇条】
病者手足厥冷、言我不結胸、小腹滿、按之痛者、此冷結在膀胱關元也。
病者手足厥冷し、我結胸せずと言う。小腹滿し、之を按じて痛む者は、此れ冷(れい)結んで膀胱關元に在(あ)るなり。
【三四一条】
傷寒發熱四日、厥反三日、復熱四日。厥少熱多者、其病當愈。四日至七日熱不除者、必便膿血。
傷寒發熱すること四日、厥すること反って三日、復た熱すること四日、厥少なく熱多き者は、其の病當に愈ゆべし。四日より七日に至りて熱除かざる者は、必ず膿血を便す。
【三四二条】
傷寒厥四日、熱反三日、復厥五日、其病為進。寒多熱少、陽氣退、故為進也。
傷寒厥すること四日、熱すること反って三日、復た厥すること五日、其の病進むと為(な)す。寒多く熱少なく、陽氣退(しりぞ)くが故に進むと為すなり。
【三四三条】
傷寒六七日、脉微、手足厥冷、煩躁、灸厥陰。厥不還者、死。
傷寒六、七日、脉微、手足厥冷し、煩躁するは、厥陰に灸す。厥還(かえ)らざる者は、死す。
【三四四条】
傷寒發熱、下利、厥逆、躁不得臥者、死。
傷寒、發熱し、下利し、厥逆し、躁して臥(ふ)すことを得ざる者は死す。
【三四五条】
傷寒發熱、下利至甚、厥不止者、死。
傷寒、發熱し、下利甚しきに至り、厥止まざる者は死す。
【三四六条】
傷寒六七日不利、便發熱而利、其人汗出不止者、死、有陰無陽故也。
傷寒六、七日利せず、便(すなわ)ち發熱して利し、其の人汗出でて止まざる者は死す。陰有りて陽無きが故なり。
【三四七条】
傷寒五六日、不結胸、腹濡、脉虛、復厥者、不可下、此亡血、下之死。
傷寒五六日、結胸せず、腹濡(なん)、脉虛し、復た厥する者は、下すべからず。此れ亡血なり。之を下せば死す。
【三四八条】
發熱而厥、七日下利者、為難治。
發熱して厥し、七日にして下利する者は、治し難しと為す。
【三四九条】
傷寒脉促(促一作縱)、手足厥逆、可灸之。
傷寒、脉促(そく)、手足厥逆するは、之を灸すべし。
【三五〇条】
傷寒脉滑而厥者、裏有熱、白虎湯主之。方二。
傷寒、脉滑にして厥する者は、裏に熱有り、白虎湯之を主る。方二。
〔白虎湯方〕
知母(六兩) 石膏(一斤碎綿裹) 甘草(二兩炙) 粳米(六合)
右四味、以水一斗、煮米熟、湯成、去滓、温服一升、日三服。
知母(六兩) 石膏(一斤、碎き、綿もて裹(つつ)む) 甘草(二兩、炙る) 粳米(六合)
右四味、水一斗を以て、煮て米熟し、湯成なりて滓を去り、一升を温服し、日に三服す。
【三五一条】
手足厥寒、脉細欲絶者、當歸四逆湯主之。方三。
手足厥寒し、脉細にして絶せんと欲する者は、當歸四逆湯(とうきしぎゃくとう)之を主る。方三。
〔當歸四逆湯方〕
當歸(三兩) 桂枝(三兩去皮) 芍藥(三兩) 細辛(三兩) 甘草(二兩炙) 通草(二兩) 大棗(二十五枚擘一法十二枚)
右七味、以水八升、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。
當歸(とうき)(三兩) 桂枝(三兩、皮を去る) 芍藥(三兩) 細辛(三兩) 甘草(二兩、炙る) 通草(二兩) 大棗(二十五枚、擘く、一法に十二枚とす)
右七味、水八升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。
【三五二条】
若其人内有久寒者、宜當歸四逆加呉茱萸生薑湯。方四。
若し其の人内(うち)に久寒有る者は、當歸四逆加呉茱萸生薑湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)に宜し。方四。
〔當歸四逆加呉茱萸生薑湯方〕
當歸(三兩) 芍藥(三兩) 甘草(二兩炙) 通草(二兩) 桂枝(三兩去皮) 細辛(三兩) 生薑(半斤切) 呉茱萸(二升) 大棗(二十五枚擘)
右九味、以水六升、清酒六升和、煮取五升、去滓、温分五服(一方水酒各四升)。
當歸(三兩) 芍藥(三兩) 甘草(二兩、炙る) 通草(二兩) 桂枝(三兩、皮を去る) 細辛(三兩) 生薑(半斤、切る) 呉茱萸(二升) 大棗(二十五枚、擘く)
右九味、水六升を以て、清酒六升を以て和し、煮て五升を取り、滓を去り、温め分かち五服す(一方に、水酒各々四升とす)。
【三五三条】
大汗出、熱不去、内拘急、四肢疼、又下利厥逆而惡寒者、四逆湯主之。方五。
大いに汗出で、熱去さらず、内拘急(こうきゅう)し、四肢疼(いた)み、又下利厥逆し惡寒する者は、四逆湯之を主る。方五。
〔四逆湯方〕
甘草(二兩炙) 乾薑(一兩半) 附子(一枚生用去皮破八片)
右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服。若強人可用大附子一枚、乾薑三兩。
甘草(二兩、炙る) 乾薑(一兩半) 附子(一枚、生を用い、皮を去り、八片に破る)
右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め再服す。若し強人なれば大附子一枚、乾薑三兩を用うべし。
【三五四条】
大汗、若大下利而厥冷者、四逆湯主之。六(用前第五方)。
大いに汗し、若しくは大いに下利して厥冷する者は、四逆湯之を主る。六(前の第五方を用う)。
【三五五条】
病人手足厥冷、脉乍緊者、邪結在胸中、心下滿而煩、飢不能食者、病在胸中、當須吐之、宜瓜蔕散。方七。
病人手足厥冷し、脉乍(たちま)ち緊の者は、邪結んで胸中に在り、心下滿して煩し、飢(う)ゆれども食すること能わざる者は、病胸中に在り。當に須(すべから)く之を吐すべし。瓜蔕散(かていさん)宜。方七。
〔瓜蔕散方〕
瓜帶 赤小豆
右二味、各等分、異擣篩、合内臼中、更治之、別以香豉一合、用熱湯七合、煮作稀糜、去滓、取汁和散一錢匕、温頓服之。不吐者、少少加、得快吐乃止。諸亡血虛家、不可與瓜蔕散。
瓜帶(かてい) 赤小豆
右二味、各々等分し、異(こと)にして擣(つ)きて篩(ふる)い、合わせて臼中に内れ、更に之を治(おさ)む。別に香豉(こうし)一合を以て、熱湯七合を用い、煮て稀糜(きび)を作り、滓を去り、汁を取り散一錢匕(ひ)を和し、温めて之を頓服す。吐かざる者は、少少加え、快吐(かいと)を得れば乃(すなわ)ち止む。諸亡(しょぼう)血虛家は、瓜蔕散(かていさん)を與うべからず。
【三五六条】
傷寒厥而心下悸、宜先治水、當服茯苓甘草湯、却治其厥、不爾、水漬入胃、必作利也。茯苓甘草湯。方八。
傷寒厥して心下悸するは、宜しく先ず水を治すべし。當に茯苓甘草湯(ぶくりょうかんぞうとう)を服すべし。却って其の厥を治せ。爾(しか)らざれば、水漬(すいし)胃に入り、必ず利を作(な)すなり。茯苓甘草湯。方八。
〔茯苓甘草湯方〕
茯苓(二兩) 甘草(一兩炙) 生薑(三兩切) 桂枝(二兩去皮)
右四味、以水四升、煮取二升、去滓、分温三服。
茯苓(二兩) 甘草(一兩、炙る) 生薑(三兩、切る) 桂枝(二兩、皮を去る)
右四味、水四升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。
【三五七条】
傷寒六七日、大下後、寸脉沈而遲、手足厥逆、下部脉不至、喉咽不利、唾膿血、泄利不止者、為難治。麻黄升麻湯主之。方九。
傷寒六、七日、大いに下したる後、寸脉沈にして遲、手足厥逆し、下部の脉至らず、喉咽(こういん)利せず、膿血を唾(だ)し、泄利(せつり)止まざる者は、治ち難しと為(な)す。麻黄升麻湯(まおうしょうまとう)之を主る。方九。
〔麻黄升麻湯方〕
麻黄(二兩半去節) 升麻(一兩一分) 當歸(一兩一分) 知母(十八銖) 黄芩(十八銖) 萎蕤(十八銖一作菖蒲) 芍藥(六銖) 天門冬(六銖去心) 桂枝(六銖去皮) 茯苓(六銖) 甘草(六銖炙) 石膏(六銖碎綿裹) 白朮(六銖) 乾薑(六銖)
右十四味、以水一斗、先煮麻黄一兩沸、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓、分温三服。相去如炊三斗米頃、令盡、汗出愈。
麻黄(二兩半、節を去る) 升麻(しょうま)(一兩一分) 當歸(一兩一分) 知母(ちも)(十八銖) 黄芩(十八銖) 萎蕤(いずい)(十八銖、一に菖蒲(しょうぶ)と作(な)す) 芍藥(六銖) 天門冬(てんもんどう)(六銖、心を去る) 桂枝(六銖、皮を去る)
茯苓(六銖) 甘草(六銖、炙る) 石膏(六銖、碎き、綿もて裹(つつ)む) 白朮(六銖) 乾薑(六銖)
右十四味、水一斗を以て、先ず麻黄を煮て一兩沸し、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。相い去ること三斗米を炊く頃の如くにして、盡(つく)せしむ。汗出でて愈ゆ。
【三五八条】
傷寒四五日、腹中痛、若轉氣下趣少腹者、此欲自利也。
傷寒四、五日、腹中痛み、若し轉氣(てんき)下り少腹に趣(おもむ)く者は、此れ自利せんと欲するなり。
【三五九条】
傷寒本自寒下、醫復吐下之、寒格、更逆吐下。若食入口即吐、乾薑黄芩黄連人參湯主之。方十。
傷寒本(もと)自と寒下(かんげ)するに、醫復た之を吐下して、寒格(かんかく)し、更に逆して吐下す。若し食口に入らば即吐するは、乾薑黄芩黄連人參湯(かんきょうおうごんおうれんにんじんとう)之を主る。方十。
〔乾薑黄芩黄連人參湯方〕
乾薑 黄芩 黄連 人參(各三兩)
右四味、以水六升、煮取二升、去滓、分温再服。
乾薑 黄芩 黄連 人參(各三兩)
右四味、水六升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め再服す。
【三六〇条】
下利有微熱而渴、脉弱者、今自愈。
下利し微熱(びねつ)有りて渴し、脉弱の者は、今自(おのずか)ら愈ゆ。
【三六一条】
下利脉數、有微熱汗出、今自愈。設復緊(一云設脉浮復緊)、為未解。
下利し、脉數(さく)、微熱有りて汗出ずるは、今自ら愈ゆ。設(も)し復た緊なれば、未だ解せずと為(な)す。
【三六二条】
下利、手足厥冷、無脉者、灸之不温、若脉不還、反微喘者、死。少陰負趺陽者、為順也。
下利、手足厥冷し、脉無き者は、之に灸す。温まらず、若し脉還(かえ)らず、反って微喘(びぜん)する者は、死す。少陰、趺陽(ふよう)より負の者は、順と為(な)すなり。
【三六三条】
下利、寸脉反浮數、尺中自濇者、必清膿血。
下利し、寸脉反って浮數(さく)。尺中自ら濇(しょく)の者は、必ず膿血(のうけつ)を清す。
【三六四条】
下利清穀、不可攻表。汗出必脹滿。
下利清穀(せいこく)するは、表を攻むべからず。汗出ずれば、必ず脹滿す。
【三六五条】
下利、脉沈弦者、下重也。脉大者、為未止。脉微弱數者、為欲自止、雖發熱不死。
下利し、脉沈弦の者は、下重(げじゅう)するなり。脉大の者は、未(いま)だ止まずと為す。脉微弱數の者は、自ら止まんと欲すと為す。發熱すると雖も死せず。
【三六六条】
下利脉沈而遲、其人面少赤、身有微熱、下利清穀者、必鬱冒汗出而解、病人必微厥、所以然者、其面戴陽、下虛故也。
下利し、脉沈にして遲、其の人面少しく赤く、身に微熱有り。下利清穀する者は、必ず鬱冒(うつぼう)し汗出でて解す。病人必ず微厥(びけつ)す。然る所以(ゆえん)の者は、其の面戴陽(たいよう)して、下虛するが故なり。
【三六七条】
下利脉數而渴者、今自愈。設不差、必清膿血、以有熱故也。
下利し、脉數にして渴する者は、今自ら愈ゆ。設(も)し差(い)えざれば、必ず膿血を清す。熱有るを以ての故なり。
【三六八条】
下利後、脉絶、手足厥冷、晬時脉還、手足温者生。脉不還者死。
下利の後、脉絶(ぜつ)し、手足厥冷するも、晬時(さいじ)にして脉還(かえ)り、手足温なる者は生く。脉還らざる者は死す。
【三六九条】
傷寒下利日十餘行、脉反實者、死。
傷寒、下利すること日に十餘行(こう)、脉反って實する者は死す。
【三七〇条】
下利清穀、裏寒外熱、汗出而厥者、通脉四逆湯主之。方十一。
下利清穀、裏寒外熱し、汗出で厥する者は、通脉四逆湯(つうみゃくしぎゃくとう)之を主る。方十一。
〔通脉四逆湯方〕
甘草(二兩炙) 附子(大者一枚生去皮破八片) 乾薑(三兩強人可四兩)
右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服、其脉即出者愈。
甘草(二兩、炙る) 附子(大なる者一枚、生、皮を去り、八片に破る) 乾薑(三兩、強人は四兩とすべし)
右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め再服す。其の脉即ち出ずる者は、愈ゆ。
【三七一条】
熱利下重者、白頭翁湯主之。方十二。
熱利(ねつり)して下重(げじゅう)する者は、白頭翁湯(はくとうおうとう)之を主る。方十二。
〔白頭翁湯方〕
白頭翁(二兩) 黄檗(三兩) 黄連(三兩) 秦皮(三兩)
右四味、以水七升、煮取二升、去滓、温服一升。不愈、更服一升。
白頭翁(はくとうおう)(二兩) 黄檗(三兩) 黄連(三兩) 秦皮(しんぴ)(三兩)
右四味、水七升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、一升を温服す。愈えざれば、更に一升を服す。
【三七二条】
下利腹脹滿、身體疼痛者、先温其裏、乃攻其表。温裏宜四逆湯、攻表宜桂枝湯。十三(四逆湯用前第五方)。
下利し、腹脹滿し、身體(しんたい)疼痛する者は、先ず其の裏を温め、乃ち其の表を攻む。裏を温むるは四逆湯に宜しく、表を攻むるは桂枝湯に宜し。十三(四逆湯は前の第五方を用う)。
〔桂枝湯方〕
桂枝(三兩去皮) 芍藥(三兩) 甘草(二兩炙) 生薑(三兩切) 大棗(十二枚擘)
右五味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升、須臾啜熱稀粥一升、以助藥力。
桂枝(三兩、皮を去る) 芍藥(三兩) 甘草(二兩、炙る) 生薑(三兩、切る) 大棗(十二枚、擘く)
右五味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す、須臾(しゅゆ)にして熱稀粥(ねつきしゅく)一升を啜(すす)り、以て藥力を助く。
【三七三条】
下利欲飲水者、以有熱故也、白頭翁湯主之。十四(用前第十二方)。
下利し水を飲まんと欲する者は、熱有るを以ての故なり。白頭翁湯を之を主る。十四(前の第十二方を用う)。
【三七四条】
下利讝語者、有燥屎也、宜小承氣湯。方十五。
下利して讝語する者は、燥屎(そうし)有るなり、小承氣湯に宜し。方十五。
〔小承氣湯方〕
大黄(四兩酒洗) 枳實(三枚炙) 厚朴(二兩去皮炙)
右三味、以水四升、取煮一升二合、去滓、分二服。初一服讝語止、若更衣者、停後服、不爾盡服之。
大黄(四兩、酒で洗う) 枳實(三枚、炙る) 厚朴(二兩、皮を去り、炙る)
右三味、水四升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、二服に分かつ。初め一服して讝語止み、若し更衣する者は、後服を停む。爾(しか)らざれば、盡(ことごと)く之を服す。
【三七五条】
下利後更煩、按之心下濡者、為虛煩也、宜梔子豉湯。方十六。
下利したる後更に煩し、之を按じて心下濡(なん)の者は、虛煩(きょはん)と為すなり、梔子豉湯に宜し。方十六。
〔梔子豉湯方〕
肥梔子(十四箇擘) 香豉(四合綿裹)
右二味、以水四升、先煮梔子、取二升半、内豉、更煮取一升半、去滓、分再服。一服得吐、止後服。
肥梔子(十四箇、擘く) 香豉(四合、綿もて裹む)
右二味、水四升を以て、先ず梔子を煮て、二升半を取り、豉(し)を内れ、更に煮て一升半を取り、滓を去り、分かちて再服す。一服にて吐を得れば、後服を止む。
【三七六条】
嘔家有癰膿者、不可治嘔、膿盡自愈。
嘔家(おうか)、癰膿(ようのう)有る者は、嘔(おう)治すべからず。膿(のう)盡(つ)きれば自ら愈ゆ。
【三七七条】
嘔而脉弱、小便復利、身有微熱、見厥者、難治、四逆湯主之。十七(用前第五方)。
嘔(おう)して脉弱、小便復た利し、身に微熱有りて、厥(けつ)を見(あら)わす者は、治し難(がた)し。四逆湯之を主る。十七(前の第五方を用う)。
【三七八条】
乾嘔吐涎沫、頭痛者、呉茱萸湯主之。方十八。
乾嘔(かんおう)し、涎沫(えんまつ)を吐し、頭痛する者は、呉茱萸湯之を主る。方十八。
〔呉茱萸湯方〕
呉茱萸(一升湯洗七遍) 人參(三兩) 大棗(十二枚擘) 生薑(六兩切)
右四味、以水七升、煮取二升、去滓、温服七合、日三服。
呉茱萸(一升、湯もて洗うこと七遍(へん)) 人參(三兩) 大棗(十二枚、擘く) 生薑(六兩、切る)
右四味、水七升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、七合を温服し、日に三服す。
【三七九条】
嘔而發熱者、小柴胡湯主之。方十九。
嘔して發熱する者は、小柴胡湯之を主る。方十九。
〔小柴胡湯方〕
柴胡(八兩) 黄芩(三兩) 人參(三兩) 甘草(三兩炙) 生薑(三兩切) 半夏(半升洗) 大棗(十二枚擘)
右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓、更煎取三升、温服一升、日三服。
柴胡(八兩) 黄芩(三兩) 人參(三兩) 甘草(三兩、炙る) 生薑(三兩、切る) 半夏(半升、洗う) 大棗(十二枚、擘く)
右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去り、更に煎じて三升を取り、一升を温服し、日に三服す。
【三八〇条】
傷寒、大吐、大下之、極虛、復極汗者、其人外氣怫鬱、復與之水以發其汗、因得噦。所以然者、胃中寒冷故也。
傷寒、大いに吐し、大いに之を下し、極めて虛し、復た極めて汗する者は、其の人外氣(がいき)怫鬱(ふつうつ)す。復た之に水を與(あた)え、以て其の汗を發し、因(よ)りて噦(えつ)を得る。。然(しか)る所以(ゆえん)の者は、胃中寒冷するが故なり。
【三八一条】
傷寒噦而腹滿、視其前後、知何部不利、利之即愈。
傷寒噦(えつ)して腹滿するは、其の前後を視て、何れの部の利せざるかを知り、之を利すれば即ち愈ゆ。
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