鍼灸医学の懐

陰陽応象大論(五) – 大宇宙と小宇宙(12)

解説と意訳

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 『天は北西に不足して陰であり、地は東南に満たないので陽である。』

 非常に難解な段落である。

 中国大陸の黄河と揚子江は、西から東へと流れているので、土地の高低と天の高低とを比較して述べられたものであるという説は、一見説得性があるようだ。

 ところが、川が東から西へと流れる地域に住む人間には合わない。

 中国特有の地理的な理由から説くのは、どうしてもやはり、観念的・こじつけの感が否めないのでこの説は採らない。

 また、<淮南子・天文訓>や<列子・湯問第五>等の伝説から説いているものなどがあるが、黄帝の

孫である顓頊(せんぎょく)と共工が争った結果、天地のひずみができたからだという説がある。

ところが顓頊は、黄帝の孫ということになっているので、これもまた時代が合わない。

 したがってこの説もまた排して、妄想することにした。



 中国文明の始まりは、天体観測にあると僕は考えているので、例によって聖人には、南面して頂いた。

 陰陽なるものは左右の道路であった。

 太陽が左手の東から昇る過程において、陰である地気もまた上昇し始める。

したがって、陰である地気は、天に上ってしまい、地に不足するので、天気有余地気不足=陽とする。

 反対に右手の西へと太陽が沈む過程においては、天に昇っていた地気が下降し始める。

したがって、天にあった地気が降りて、大地に盛んになるので、陰気有余天気不足=陰である。

 ごく単純に、このように考えれば、自然界と人間の気の消長とは、天人相応として合致するのではないかと考える。

 臨床的にも、天気を基準に人体の左右を論じれば、左が陽であり、右が陰であるので、
左の感覚器が利く。

 地気を基準に、人体の左右を論じれば、右が陽であり、左が陰であるので、右の運動器が利く。

 単純に右が陰であるとか陽であるなどという論議は、意味を成さないのである。

 このように内経医学では天地の陰陽も人間の陰陽も相応じていることを意図しているという点を忘れてはいけない。

 この点を踏まえて、意訳して参ります。


原 文 意 訳

 天の気は、北西に不足するので、西北方は陰である。


 そして人の右の耳目は、左ほどはっきりとしていない。


 地の気は、東南に満ちることが無いので、東南方は陽である。


 そして人の左の手足は、右のように強くないのが常人であると言う。


 帝は、「何を根拠にこのようなことを述べているのであろうか」と申された。


 
 そこで岐伯は、以下のようにお答えした。
 
 東方は陽気が昇り始めるので、人体の精は陽気と相まって上に集まるのである。


 上に集まるところは、明らかとしてはっきりとし、その下は虚ろとなるのが道理であります。


 したがって、天の気である神気が出入りする感覚器=左の耳目は聡明になるが、地気の濁氣を受けて機能する運動器=下方の左の手足はあまり利かないものである。


 西方は陰気が盛んになり始めるので、人体の精は陰気と相まって下に集まるのである。


 下に集まるところが盛んとなるので、上は虚ろとなるのが道理であります。


 したがって、右の耳目は聡明でなく、右の手足は都合よく利いてくれるのである。


 このようにして、天の気の偏在が、そのまま一般的な人間の利き目・耳、利き手・足を生じさせるのである。


 したがって、邪気が左右に等しく襲ったとしても、その邪が上にあれば右の耳目が甚だしく症状が現れ、邪が下にあると左の手足が甚だしく症状が現れるのである。


 これらは、天地の空間的場において、陰陽が消長(偏在)するために、完全に等しいということが存在しえないからである


 そして邪は、その精気が虚ろなところに居つくのである。
 
原文と読み下し


天不足西北.故西北方陰也.而人右耳目不如左明也.
地不滿東南.故東南方陽也.而人左手足不如右強也.
帝曰.何以然.


天は西北に不足す。故に西北方は陰なり。而して人の右の耳目、左の明なるに如からざるなり。
地は東南に滿ちず。故に東南方は陽なり。而して人の左手足、右の強きが如からざるなり。
帝曰く、何を以って然りや。


岐伯曰.
東方陽也.陽者其精并於上.并於上.則上明而下虚.故使耳目聰明.而手足不便也.
西方陰也.陰者其精并於下.并於下.則下盛而上虚.故其耳目不聰明.而手足便也.
故倶感於邪.其在上則右甚.在下則左甚.此天地陰陽所不能全也.故邪居之.


岐伯曰く、
東方陽なり。陽なる者は其の精上に并せ、上に并せれば則ち上明らかにして下虚す。故に耳目聰明にして、手足便ならざらしめるなり。
西方陰なり。陰なる者は其の精下に并せる。下に并せれば則ち下盛んにして上虚す。故に其の耳目聰明ならずして、手足便なり。
故に倶に邪に感じ、其れ上に在れば則ち右甚はだし。下に在れば則ち左甚はだし。此れ天地陰陽の所、全けきこと能わざるなり。故に邪これに居す。


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