鍼灸医学の懐

金匱真言論(四) – 季節と発病(2)

解説と意訳

 ここから陰陽論を用いての展開となります。
 
 一年の内の四季は、四時の気として陰陽の割合が変化することは、これまでに繰り返し述べられてきました。しこれを陰陽の消長と称するのですが、この1年の陰陽の消長法則は、1日の陰陽法則にも当てはまり、さらに人体もまた、同一の法則で消長するのだと説いています。
 
 この概念は、とても有用で必須です。


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 大きくは、一年の春夏秋冬のどの季節が体調が良く、どの季節で悪化するかということと、小さくは一日の内で、朝・昼・夕・夜での症状や体調の変化は、同じ陰陽の消長法則で測ることが出来るので、病態把握には欠かせない概念です。


 本文に陰陽と言う用語が現れたら、陰陽論の属性・消長・平衡・転化・互根・可分など、どの概念で何を説明しようとしているのかをしっかりと認識していることが大切です。


 この点に関して古典を読む場合には、素養として陰陽論はすでに完全理解している必要があります。これを知らずに、陰だ、陽だといっても、言葉遊びになってしまいます。


 陰陽の使い方は、一様ではないのです。この点が肝要です。


 原 文 意 訳


 そして以下のように解きます。


 陰の中にも陰があり、陽の中にも陽があると。


 たとえれば、陽気が生じる夜明けから、最も盛んになる日中までは、天の気は、陽中の陽であります。
 また次第に陽気が衰えて行く日中から夕方の黄昏までは、天の気は、陽中の陰であります。


 陰気が盛んになり始める夜のとばりが降りた時から、陰気が衰え空が白んで鶏が鳴き始める頃までは、天の気は、陰中の陰であります。


 鶏鳴から夜明けまでは、天の気は、陰中の陽であります。


 陰陽の変化は、このように互いに伸びたり縮んだりする。これを陰陽の消長というのでありまして、人の陰陽の消長もまた、自然界の変化とリンクするのであります。


 同様に、人の陰陽について述べると、身体外部は陽でして、内部は陰であります。
 体幹部について言えば、背は陽であり、腹は陰であります。
 これは、陰陽の属性関係で述べたものでありますので、よく認識なさって下さい。


 臓腑について言えば、臓は陰であり腑は陽であります。


 肝心脾肺腎の五藏は、精気を内に蔵しているのですべて陰であり、膽胃大腸小腸膀胱三焦の六府は、具体的に消化活動を担っているので、すべて陽であります。


 黄帝がお尋ねになるには、「陰中の陰であるとか陽中の陽であるとかを理解しようとするのは何のためであるのか。」と。


 岐伯がそれに応えて以下のようにご回答された。


 冬の病は陰にあり、夏の病は陽にあり、春の病は陰にあり、秋の病は陽にあります。


 このようにして、四季の変化によって病の所在も異なるのでありますから、それらを弁別して鍼石を施す目的のためでございます。


 さらに詳しく述べますと、背は陽であり、陽中の陽は心であり、背は陽であり、陽中の陰は肺である。


 つまり、属性として胸郭部は陽であるが、その中にある臓の性質を見るといつも動いている心肺は共に陽でありますが、陽気の強さから比較すると心は陽中の陽、肺は陽中の陰ということになります。


 背に対して腹は陰ですが、最も位置的に低いのは腎ですので、陰中の陰であります。


 またその上に位置している肝は、陰中の陽であり、腹の最も深いところに位置する脾は、陰中の至陰ということになるのであります。


 これらの陰陽表裏、内外雌雄のすべては互いに交流しながら、しかも相対的に相応しており、さらには天の陰陽変化の法則とも相応するのであります。


 黄帝がおっしゃるには、『五臓は四時に相応して変化するのは理解できた。ところで五臓と自然界の気の変化である四時の気の具体的なやり取り、交流などの関係はどのようであるのだろうか。』と。


 岐伯が応えて以下のように申した。


 今まで解いて来たことをさらに深く具体的な関係があることを、お話し致します。


 東方は、陽気が生じるところで、黒かった空に青が現れるので、その色は青であり、人体の肝の臓に通じます。肝の気は目を通じて出入りし、その精は肝に蔵する。肝の病は、恐れて不安で落ち着かない病を生じます。


 五味のうちの酸味は肝に入り、植物では伸びる様子から草木に相当し、家畜では朝一番に鳴く鶏、穀物では麦が肝を養うのであります。その四時に対応する天の星回りは、木星に相当します。春気の性質として上に昇るので、身体の気もまた頭部に集中しやすいのであります。その五音は、角であり、水火木金土の天五に地の五を加えた成数は、八。肝の病は筋にあることが多く、その臭いは生臭いのであります。



 同じように、南方は最も陽気が強く、その色は赤であり明に象徴され、人体の心の臓に通じます。心の気は耳を通じて出入りし、精を心に蔵する。心の病は五臓すべてに原因がある

 五味では苦味、熱く燃える様子から火に相当し、家畜では陽気の強い羊であり、穀物では黍、四時に対応する天の星回りは火星であります。心の病は、脈に在ることが分かります。
 五音は徴、成数は七、その臭いはこげ臭いのであります。



 中央は大地の色、黄色そのものであります。その気は脾に通じ、脾の気は口を通じて出入りし、その精は脾に蔵します。したがって、脾の病は舌本に在ります。


 五味では甘味、万物を生じる様子から土に相当し、家畜では牛、穀物は稷(しょく=アワ、キビとの説)、四時に対応する天の星周りは土星である。脾の病は、肉に在ることが分かる。
 五音は宮、成数は五、その臭いはかんばしいのであります。



 西方は日の入り後、次第に空の色が失せて来るので、その色は白であり、人体の肺の臓に通じます。肺の気は、鼻を通じて出入りし、その精は肺に蔵する。肺の病は背に在ります。


 五味では辛味、固く締める作用から金に相当し、家畜では馬、穀物は稲、四時に対応する天の星周りは金星である。肺の病は、皮毛に在ることが分かるのです。
 五音は商、成数は九、その臭いはなまぐさいのであります。



 北方は日が沈んだ夜の闇、その色は黒であり、人体の腎の臓に通じます。腎の気は、尿道と肛門の二陰を通じて出入りし、その精は腎に蔵する。腎の病は小肉の会合する所に在ります。


 五味ではしおからい鹹味(かんみ)、最も下部で水が集まりやすいので水に象徴され、家畜では豚、穀物は豆、四時に対応する天の星回りは水星である。腎の病は、骨にあることが分かるのであります。
 五音は羽、成数は六、その臭いはくされ臭いのであります。
 これらのことは、基本でありますので、すべて暗記して自由に使えるようにしておくべきです。


 したがって脈診をする者は、謹んでしっかりと体表に現れる五臓六腑の兆候を察知し、身体に現れた症状が、自然の法則に沿って現れているのか、それともひとひねりして現れているのか、寒熱の傾き、正邪がどこで争っているのか、さらには男女の生理をわきまえてこれを読み解き、これらを心意にしっかりと治め、精神を集中させるのであります。


 このような術は、志高く教えるに足りると判断したもの以外には教えてはなりません。またその人物の志が真実で無ければ、授けてはならない。これが大自然の法則=道を我がものにした人物の所業であります。


原文と読み下し


故曰.陰中有陰.陽中有陽.
平旦至日中.天之陽.陽中之陽也.
日中至黄昏.天之陽.陽中之陰也.
合夜至鶏鳴.天之陰.陰中之陰也.
鶏鳴至平旦.天之陰.陰中之陽也.
故人亦應之.
故に曰く、
陰中に陰有り、陽中に陽有り、
平旦から日中に至るは、天の陽、陽中の陽なり。
日中から黄昏に至るは、天の陽、陽中の陰なり。
合夜から鶏鳴に至るは、天の陰、陰中の陰なり。
鶏鳴から平旦に至るは天の陰、陰中の陽なり。
故に人もまたこれに應ず。


夫言人之陰陽.則外爲陽.内爲陰.
言人身之陰陽.則背爲陽.腹爲陰.
言人身之藏府中陰陽.則藏者爲陰.府者爲陽.
肝心脾肺腎五藏.皆爲陰.膽胃大腸小腸膀胱三焦六府.皆爲陽.
夫れ人の陰陽を言えば、則ち外は陽と為し、内は陰と為す。
人身の陰陽を言えば、則ち背は陽と爲し、腹は陰と爲す。
人身の藏府中の陰陽を言えば、則ち藏なる者は陰と爲し、府なる者は陽と爲す。
肝心脾肺腎の五藏、皆陰と爲す。膽胃大腸小腸膀胱三焦の六府、皆陽と為す。


所以欲知陰中之陰.陽中之陽者.何也.
爲冬病在陰.夏病在陽.
春病在陰.秋病在陽.
皆視其所在.爲施鍼石也.
陰中の陰、陽中の陽なる者を知らんと欲するゆえんのものは、何なるや。
冬に為す病は陰に在り。夏病むは陽に在り。
春病むは陰に在り。秋病むは陽に在り。
皆其の在る所を視て、鍼石を施すと爲すなり。

故背爲陽.陽中之陽.心也.  背爲陽.陽中之陰.肺也.
腹爲陰.陰中之陰.腎也.   腹爲陰.陰中之陽.肝也.
腹爲陰.陰中之至陰.脾也.
此皆陰陽表裏.内外雌雄.相輸應也. 故以應天之陰陽也.
故に背は陽と爲し、陽中の陽、心なり。 背は陽と爲し、陽中の陰、肺なり。
腹は陰と爲し、陰中の陰、腎なり。 腹は陰と爲し、陰中の陽、肝なり。
腹は陰と爲し、陰中の至陰、脾なり。
此れ皆陰陽表裏、内外雌雄、相輸して應ずるなり。故に以って天の陰陽に應ずるなり。


帝曰.五藏應四時.各有收受乎.
岐伯曰.有.
東方青色.入通於肝.開竅於目藏精於肝.其病發驚駭.
其味酸.其類草木.其畜鶏.其穀麥.其應四時.上爲歳星.
是以春氣在頭也.其音角.其數八.是以知病之在筋也.其臭醒.
帝曰く、五藏は四時に應じ、各々收受有りや。
岐伯曰く、有りと。
東方青色、入りて肝に通ず。目に開竅し精を肝に藏す。其の病、驚駭を発す。
其の味は酸。其の類は草木。其の畜は鶏。其の穀は麥。其の四時に應ずるや、上は歳星と爲す。
是を以って春氣は頭に在るなり。其の音は角。其の數は八。是を以ってこの病は筋に在るを知るなり。其の臭は醒。


南方赤色.入通於心.開竅於耳.藏精於心.故病在五藏.
其味苦.其類火.其畜羊.其穀黍.其應四時.上爲熒惑星.
是以知病之在脉也.
其音徴.其數七.其臭焦.
南方赤色。入りて心に通ず。耳に開竅す。精を心に藏す。故に病、五藏にあり。
其の味は苦。其の類は火。其の畜は羊。其の穀は黍。其の四時に應ずるや上は熒惑星となす。
是を以って病は脉に在るを知るなり。
其の音は徴。其の數は七。其の臭は焦。


中央黄色.入通於脾.開竅於口.藏精於脾.故病在舌本.
其味甘.其類土.其畜牛.其穀稷.其應四時.上爲鎭星.
是以知病之在肉也.
其音宮.其數五.其臭香.
中央黄色。入りて脾に通ず。口に開竅す。精を脾に藏す。故に病は舌本に在り。
其の味は甘。其の類は土。其の畜は牛。其の穀は稷。其の四時に應ずるや、上は鎭星と爲す。
是を以って病の肉に在るを知るなり。
其の音は宮。其の數は五。其の臭は香。


西方白色.入通於肺.開竅於鼻.藏精於肺.故病在背.
其味辛.其類金.其畜馬.其穀稻.其應四時.上爲太白星.
是以知病之在皮毛也.
其音商.其數九.其臭腥.
西方白色。入りて肺に通ず。鼻に開竅す。精を肺に藏す。故に病は背に在り。
其の味は辛。其の類は金。其の畜は馬。其の穀は稻。其の四時に應ずるや、上は太白星と為す。
是を以って病は皮毛に在るを知るなり。
其の音は商。其の數は九。其の臭は腥。


北方黒色.入通於腎.開竅於二陰.藏精於腎.故病在谿.
其味鹹.其類水.其畜彘.其穀豆.其應四時.上爲辰星.
是以知病之在骨也.
其音羽.其數六.其臭腐.
北方黒色。入りて腎に通ず。二陰に開竅す。精を腎に藏す。故に病は谿に在り。
其の味は鹹。其の類は水。其の畜は彘。其の穀は豆。其の四時に應ずるや、上は辰星と爲す。
是を以って病は骨に在るを知るなり。
其の音は羽。其の數は六。其の臭は腐。


故善爲脉者.謹察五藏六府.一逆一從.陰陽表裏雌雄之紀.藏之心意.合心於精.
非其人勿教.非其眞勿授.是謂得道.
故に善く脉を爲す者は、謹しみて五藏六府を察っし、一逆一從。陰陽表裏雌雄の紀。これを心意に藏し、心に精を合っす。
其れ人にあらざれば教えることなかれ。其れ眞にあらざれば授けることなかれ。是れ道を得ると謂う。


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