鍼灸医学の懐

四気調神大論(二)- 未病の思想

解説と意訳

 本編の最終稿にふさわしく、総まとめとなる内容である。



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 自然は、その移ろいに従って、四季折々の美しい姿を見せてくれる。
 私たちはそのような変化の景観と空気に触れて、様々なことを感じ・
想いながら、季節の移ろいに寄り添うような生活を営む。
 伝統文化は、その国、その地域特有の気候風土と一体となった感性
が、その根底にある。
 日本人特有の感性は、この国特有の気候風土、すなわち自然の法
則に最も適応したものとして形成され、衣・食・住の文化様式はその感
性が具体的に表現したものである。
この国に、もっともふさわしい伝統文化が、現代ことごとく破壊され西
洋化され、人間と自然との関係が分断されているのである。
 伝統文化の崩壊は、実は人間の健康を確実に崩壊へと導くもので
ある。
 個人個人の混乱は、その総体として、世の混乱へと繋がっているの
である。
 季節に適った生活習慣を素直に従えば、社会生活を送れないほど
に社会システムそのものが、遠く自然とはかけ離れてしまっている現代。
 公衆衛生設備は整い、各家庭では伝染病を気にせず、厳しい寒暑
に身をさらすことも無い生活が出来るようになり、医療も後退すること
なく高度に発展し、誰でもが医療を受けることが出来る今日。
 ところが病人は減るどころか増加の一方、病気も今までになかった
新病・奇病の出現、医療費は、各家庭のみならず保健組合の財政をも
圧迫している現状。
 病人・医療、花盛りといった活況を呈している原因の根底には何が
あるか。
 未病を体現し、個の人生を生き切るにはどうすればいいのか。

人間は、自然という『神の分身』である。

 このことを、思い出すことだ。

 原 文 意 訳

 四季の陽気・陰気の変化は、万物が成長・枯れ死する原因の根本
である。人間もまた、同様である。
 聖人は春夏に活動的・開放的になり、秋冬には消極的・収束的になる。
そのように身を処している理由は、天地陰陽の法則に従おうとするから
である。
自然界の万物と共に成・長・収・蔵の気の変化の規律と同調し、意識
せずとも自然と一体となるのである。
 このような陰陽の基本に逆らうと、身体の最も大切なところを打ち
破ってしまい、精と神は粉々になってしまうのである。
 従って、四季の陽気・陰気の変化は、万物の始まりと終わり・人間が
生存している条件の根本法則である。
この根本法則に逆らうようでは、当然災害も起きようし、従えば激し
い病気も起こらないのである。
聖人はいちいち考えて行動するのではなく、気の赴くままに行動し
ても、自然の理にかなっている。これを道を得るというのである。
道なるものは、聖人は意識さえもせず、当然のようにこれを行うが、
愚かな者は陰陽の変化についていけないので、背反することになっ
てしまうのである。
 陰陽の法則に従えば生き、これに逆らえば死を招く。これに従えば
世も平和でよく治まり、これに逆らえば乱れる。
自然の理に背くと、体表と体内の気が交流しなくなる、内格という状
態になるのである。
 このようであるから聖人は、すでに病気になってしまってから治療し
ようとするのではなく、まだ病気になる前に治めるものである。
すぐれた政治家が、世がすでに乱れてしまってから治めるのではな
く、乱れる前に未然にこれを察知して治めることが出来るのも、この
法則に法っているからである。
 すでに病になってしまった後になって、薬を処方したり治療を施す
は、世が乱れてしまってからこれを平定しようとすることである。
 このあまりに遅く愚かであることを例えるなら、あたかも喉がカラカ
に乾いてしまってから井戸を掘るようなものであり、また戦争が始
まってしまってから、あわてて兵器を作ろうとするようなものである。
なんと! もう手遅れではないか!!
 
夫四時陰陽者.萬物之根本也.所以聖人春夏養陽.秋冬養陰.以從其根.故與
萬物沈浮於生長之門.
逆其根.則伐其本.壞其眞矣.
故陰陽四時者.萬物之終始也.死生之本也.逆之則災害生.從之則苛疾不起.
是謂得道.
道者.聖人行之.愚者佩之.
夫れ四時陰陽なる者は萬物の根本なり。聖人は春夏に陽を養い、秋冬に陰を養うは
以って其の根に從うが所以(ゆえん)なり。故に萬物と生長の門に沈浮す。
其根に逆えば則ち其の本を伐ち、其の眞を壞すなり。
故に陰陽四時なる者は萬物の終始なり。死生の本なり。これに逆らえば則ち災害生ず。
これに従えば則ち苛疾(かしつ)は起らず。是れ道を得たりと謂う。
道なる者は聖人はこれを行い、愚者はこれに佩(そむ)く。
從陰陽則生.逆之則死.從之則治.逆之則亂.
反順爲逆.是謂内格.
陰陽に従えば則ち生き、これに逆らえば則ち死す。これに従えば則ち治まり、之に逆ら
えば則ち亂(みだ)れる。
順に反すれば逆を為す。是を内格と謂う。
 
是故聖人不治已病.治未病.不治已亂.治未亂.此之謂也.
夫病已成而後藥之.亂已成而後治之.譬猶渇而穿井.鬪而鑄錐.不亦晩乎.
是れ故に聖人已(すで)に病みたるを治せず、未だ病ざるを治す。已(すで)に亂(みだ)
れたるを治せずして未だ亂(みだ)れざるを治すとは此を謂うなり。
夫れ病已(すで)に成りて後これに藥し、已(すで)に亂(らん)成りて後これを治むるは、
譬(たと)えば猶(なお)渇して井を穿(うが)ち、鬪いて錐(すい)を鑄(い)るがごとし。
亦晩(おそ)からずや。

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