前回の内容を、もう少し詳しく解説したいと思います。
素問は、81篇にまとめられているのですが、この上古天真論の内容を説明したいがゆえに残りの篇があると言っても過言ではない。つまり上古天真論に始まって上古天真論にまた還って終わるのである。僕はそのように考えます。
当時(800年ごろ)、中国全土に散逸していたこの書を集め、編纂した王冰(おうひょう)が上古天真論を巻頭に持ってきたのは、達見であったと言わざるを得ない。
前置きはこのくらいにして、順次説いて参ります。
まず、「道」について。 「タオ」として世界的に知られている言葉であるが、一言で表せば、「自然界の法則」である。
そして「自然界の法則」=「道」の認識論が陰陽論となる。 認識される以前を「混沌」=太極であるとし、一円で表される。
図1-太極 (一円相)
太極は認識以前であるから、訳のわからない世界であるからこれを陰陽両義、二つに分けて認識しようとする訳です。
図2- 陰陽両義
一般的には、韓国国旗の中心にある二つの勾玉が互いに抱き合ったような図と言えばイメージが湧くと思います。
この極めて単純なモデルを用いて、あらゆる事象を認識しようと試みて作られたものが易経で、中国文化の基礎中の基礎。根本中の根本であるわけです。医学もまた、その例外ではありません。
東洋医学を標榜するのであれば、易学は必須の科目です。 このように豪語しておきながら、我ながら心もとない状態ではありますが、浅学を露呈しながら進めて参ります。
陰陽の使い方の一つに「消長」という認識方法があります。陽が増えると陰が減り、陰が増えると陽が減るというように交互に増減するという認識です。
図3- 陽長陰消
図3は、赤の陽気が次第に伸びて、青の陰気が沈んで行く様子を示しています。一日の内では、朝から昼にかけて。一年の内では春から夏にかけての陰陽の消長を現したものです。
図4-陰長陽消
今度は反対です。 赤の陽気が衰え、青の陰気が盛んになり、昼から夜へ、そして夏から冬へと向かう様子を示しています。
自然界の陰陽の気は、このように消長を繰り返しながら循環しています。ミクロコスモスである人間もまた、同じように消長します。
朝目が覚めると、陽気が次第に増えてくるので頭がはっきりとしてきます。ボーっとする人は陽気が昇ってこないというわけです。
そして朝の準備をしながら、心も体も陽に向かって忙しく動くようになります。
正午を過ぎて、自然界に陽気が傾き陰気が覆うようになってくると、人は次第に動きを穏やかにし夜の陰気の深まりとともに心も体も動きを止めて陰に向かって眠るわけです。
一年間の春夏秋冬も同様です。
原文の「上古の人、其の道を知る者は、陰陽に法り、術数に和し、飲食に節有り、起居に常有り、妄りに労を作さず。」 とは、まさにこの陽気・陰気の消長に調和することが、生活の基本であると説いているのです。
さらに細かく解説します。
睡眠は、何時間寝たかということよりも、何時に就寝するかが大切です。陰気の最も深まるのは午前12時には、熟睡の状態であることが自然の理に適っている訳です。
夜は、自然界の陰気と共に、人間の心身も陰に入り最も大切な至宝である「精」=生命現象の物質的な基盤を養う時期です。一年では、冬の時期に相当するので冬至のころには一息ついて穏やかに過ごすことが肝要です。
飲食もまたしかり。食事を摂る時間。季節の気を受けた旬の食材。そして量の過不足。
そして労働。労は勞。力を入れた様に、うかんむりの上に火が二つ乗っています。上半身に陽気が集まる様で動くのが労働ですね。
欲や思いを遂げようとして陰陽の消長を無視したような働き方を戒めているのですね。
ちなみに、陰陽の消長が真逆に入れ替わる時を「極まる」と表現し、陰陽が入れ替わることを表現します。
これを「陰陽の転化」というのですが、この概念の応用範囲は広くて便利なのでいずれ書きます。
まだまだ奥が深いです。
もうしばらく上古天真論(じょうこてんしんろん)第1段前篇の解説を続けます。
つづく
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