鍼灸医学の懐

骨空論篇第六十

 本篇は、骨空論であるが、さっと一読して内容に多少まとまりが無いように感じられる。

 おそらく散逸していたものを継ぎ合わせたのではないかと推測されるのですが、読者の方々、いかがでしょう。

 また、治療穴に関しても、全体の気血陰陽の調和という観点から爲されていないように思えるので、筆者はここに記されている治療は取らない。

 骨空とは関係のない督脈流注が記されているが、筆者はこの点が大いに参考になった。

 その理由は、経絡とは一応十四経に分けられているが、本来はひとつのものであるということである。

 王冰の一源三岐論は、太極であると確信した流注の記載である。

 さらに、奇經八脉の位置づけ・意味付けに繋げることが出来たので、いずれ『鍼道 一の会』ブログで公開し、みなさまのご意見を頂きたいと考えております。

        原 文 意 訳

 黄帝が問うて申された。

 余は風なるものは百病の始まりと聞いているが、鍼でこれらを治するにはどのようにすればよいのであろう。

 岐伯が対して申された。

 風が身体外部から侵入いたしますと、寒さに震えたり汗をかくようになり、頭痛がして身体が重だるく、ゾクゾクとした悪寒がするものであります。

 このような場合、風府穴を用いまして、身体の陰陽を調えます。そして身体の正気が不足していれば補法を用い、邪気が盛んであれば瀉法を用いるのであります。

 風邪が体表にありますと頸項が痛みますが、同じく風府穴を用います。風府穴は椎骨の上方に在ります。

 また風邪を受け、汗をかくようでしたら譩譆穴に施灸します。譩譆穴は、背中の下方に在りまして、脊椎を挟む傍ら三寸のところにあります。

 譩譆穴の所在は、そこを圧して病者にアーアーという声を出させますと、その声の響きが手に伝わってくるところであります。

 風に吹かれることを嫌うものには、眉頭の攅竹穴を刺します。

 後頚部が強ばって寝違えのようになる失枕は、肩の上の横骨の間を取穴いたします。

 また両肘を折り曲げ、肘をそろえた体勢で脊中穴に施灸いたします。

 胸脇から少腹にかけて、痛み脹れる場合は、譩譆を刺します。

 腰痛で、筋が緊張して動かせず、睾丸にまで痛みが及ぶような場合は、八髎と痛むところを刺します。八髎は、腰と尻の間、仙骨部に取ります。

 鼠径部に瘰癧(るいれき)が生じ寒熱するものは、寒府の周囲を刺します。

 寒府は膝の外上部にあります。この寒府は、拝むような体勢を取らせます。足心の湧泉穴は、ひざまずかせて取穴いたします。

 

 任脈は、中極の下の会陰から起こり、毛際に上って腹の深部を循り、さらに関元を上って咽喉に至り、さらに顎に上って顔面を循り目に入ります。

 衝脉は、気街である気衝に起こり、足少陰の経に並びながら臍を挟んで上行し、胸中に至って散じます。

 任脈の病は、男子は腹内が結して七疝となり、女子は帯下と積聚が生じます。

 衝脉の病は、氣逆を起こしまして腹中が引きつり痛みます。

 督脈の病は、背中が強ばってのけぞるかのようになります。

 

 督脈は、少腹から起こり、恥骨中央に下ります。

 女子はここから深部に入り、廷孔に達します。廷孔とは、尿道口です。

 ここから始まる絡脉は、外陰部を循り会陰部を通って肛門側に流れ、ここからの別絡は臀部を繞り足少陰と足太陽の絡脉と合流します。

 そしてその足少陰は、大腿内側後縁を上り、背骨を貫いて腎に属します。

 さらに足太陽は目の内眥に起こり、額を上り百会穴で左右交わり、そこから深く入って脳を絡います。

 さらに脳からまた浅く出て項を下り、肩甲骨の内側を循り、背骨を挟んで腰に下り、ここから深部に入って脊柱起立筋を循ると同時に腎を絡います。

 男子は陰茎をを循り、会陰に至った後は女子と同じであります。

 さらに下腹部から真直ぐに上がる流れは、臍の中央を貫き、さらに上って心を貫いて喉に入り、オトガイに上って唇を環り、さらに上って両目の中央の下に繋がります。

 この督脈が生じる病は、少腹から気が上って心を衝いて痛み、大小便が出なくなる衝疝の病となります。

 女子の場合は、懐妊できない、痔疾、遺溺(尿漏れ)、口乾などの症状が現れます。

 督脈が生じる病には、督脈を治療します。治療点は、督脈上にあります。症状の激しいものは、臍下に取ります。

 

 上気して呼吸音のするものは、缺盆のまん中、喉の中央に取ります。

 その病が、喉に上昇する場合は、その病の進む方向の上方、オトガイを挟むところを取穴します。

 膝の不調で、伸ばすことはできても屈することのできないものは、股部を治します。

 座して膝が痛むものは、環跳穴付近を治します。

 立つと膝に熱を持ったように痛むものは、その膝関節を治します。

 膝の痛みが、足の親指にまで及ぶものは、膝の裏を治します。

 坐ると膝が痛む様子が、何か隠れてはっきりとしないかのようなものは、膝裏の上方を治します。

 膝が痛んで屈伸できないものは背中を治します。

 下肢が折れるかのように痛むものは、足陽明の三里を治するか、もしくは別に足太陽と少陰の滎穴の通谷、然谷を治します。

 膝がだるく痛み、しかも力が入らず長く立っていることのできないものは、足少陽の維である外踝の上五寸の光明穴を治します。

 輔骨の上、横骨の下を楗と申します。

 腸骨・坐骨・恥骨を侠む環跳穴付近を機、

 膝で上下の骨が接するところを骸關、

 膝を挟む骨を連骸、

 連骸の下を輔、

 輔の上を膕、

 膕の上を關、

 頭の横骨を枕とそれぞれ申します。

 

 水に関する兪穴五十七穴は、尻上に五行ありまして、行に五穴あります。

 伏菟の上には二行ありまして、行に五穴あり、左右の一行にそれぞれ五穴あります。

 足の踝上に各一行、行に六穴あります。

 髄空は、脳の後ろ三分の風府穴、頤下の中央部、項で骨にふれない瘂門穴、風府穴の上に在る腦戸穴、尻骨の下の長強穴であります。

 数々の髄空は、面にあって鼻を挟むところ、あるいは口下から両肩にある骨空に在ります。

 両方の肩甲骨の骨空は、肩甲骨の外側にあります。上肢の骨空は、上腕の外側で腕関節からの上方四寸の両骨の間に在ります。

 股骨の上の骨空は、股の外側で膝の上四寸にあります。

 脛の骨空は、輔骨の上端に在ります。股際の骨空は、陰毛中の動脉の下に在ります。

 尻の骨空は、髀骨の後ろから相去る四寸の八髎穴にあります。

 扁骨には、滲み出る筋道にあつまり、髄孔がないのは、髄をおさめているからであります。

 寒熱症状に灸をする方法は、まず項の大椎に患者の年齢と同じ数だけ灸を致します。

 次に尾窮つまり長強穴に同じく年齢に応じた壮数を施します。

 背部の兪穴を視て、陥凹部に施灸いたします。

 上肢を挙げて現れる肩の上の陥凹部に施灸いたします。

 両季脇の間に施灸いたします。

 外踝の上の絶骨の端の陽輔穴に施灸いたします。

 足の小指の次指の間に施灸いたします。

 ふくらはぎの下の陥凹部に施灸いたします。

 外踝の後ろに施灸いたします。

 缺盆の骨の上、これを切して筋のように堅く痛むところに施灸いたします。

 胸の肋間に施灸いたします。

 手の表腕の下に施灸いたします。

 臍下三寸、関元穴に施灸いたします。

 陰毛際の動脉に施灸いたします。

 膝下三寸の分間に施灸いたします。

 足陽明の足の甲の動脉に施灸いたします。

 巓上、百会穴に施灸いたします。

 

 犬に噛まれたところに三壮施灸いたします。つまり噛み傷によって寒熱を生じましたら、犬傷による病を治す方法に従って施灸いたします。

 凡そ、施灸すべきは二十九ヶ所あります。

 食に傷られた場合、施灸しても治らない時は、必ず陽経の実するところを視て何度もその兪穴を刺して実を覗いて後、湯液を処方いたします。

          原文と読み下し

黄帝問曰.余聞風者百病之始也.以鍼治之奈何.

岐伯對曰.

風從外入.令人振寒汗出.頭痛身重惡寒.治在風府.調其陰陽.不足則補.有餘則寫.

大風頸項痛.刺風府.風府在上椎.

大風汗出.灸譩譆.譩譆.在背下.侠脊傍三寸所.厭之令病者呼譩譆.譩譆應手.

黄帝問いて曰く。余は聞くに風なるは百病の始めなりと。鍼を以てこれを治するはいかん。

岐伯對して曰く。

風外より入れば、人をして振寒し汗出で、頭痛し、身重くして惡寒せしむる。治は風府に在り。其の陰陽を調えるに、不足は則ち補い、有餘は則ち寫す。

大風、頸項痛まば、風府を刺す。風府は上椎に在り。

大風、汗出ずるは、譩譆に灸す。譩譆、背の下、脊を侠む傍ら三寸の所に在り。これを厭(おさ)え、病者をして譩譆と呼ばしめれば、譩譆は手に應ず。

從風憎風.刺眉頭.失枕.在肩上横骨間.

折使楡臂齊肘.正灸脊中.

風に從りて風を憎めば、眉頭を刺す。失枕(しつちん)は、肩の上の横骨の間に在り。

折りて楡臂(ゆひ)せしめて、肘に齊(ひと)しく正し、脊中に灸す。

絡季脇.引少腹而痛脹.刺譩譆.

䏚絡季脇、少腹に引きて痛脹するは、譩譆を刺す。

腰痛不可以轉搖.急引陰卵.刺八髎與痛上.八髎.在腰尻分間.

腰痛み以て轉搖すべからず、陰卵に急引するは、八髎と痛上を刺す。八髎、腰と尻の分間に在り。

鼠瘻寒熱.還刺寒府.寒府.在附膝外解營.取膝上外者.使之拜.取足心者.使之跪.

鼠瘻の寒熱は、還りて寒府を刺す。寒府、膝に附く外解の營に在り。膝の上の外なる者を取るに、これをして拜せしめ、足心を取るには、これをして跪(ひざまず)かしむ。

任脉者.起於中極之下.以上毛際.循腹裏.上關元.至咽喉.上頤.循面入目.

衝脉者.起於氣街.並少陰之經.侠齊上行.至胸中而散.

任脉爲病.男子内結七疝.女子帶下聚.

衝脉爲病.逆氣裏急.

任脉は、中極の下に起こり、以て毛際を上り、腹裏を循り、關元に上り、咽喉に至り、頤を上り、面を循りて目に入る。

衝脉は、氣街に起こり、少陰の經に並び、齊を侠んで上行し、、胸中に至りて散ず。

任脉の病たるや、男子は内結七疝す。女子は帶下瘕聚す。

衝脉の病たるや、逆氣して裏急す。

督脉爲病.脊強反折.

督脉者.起於少腹.以下骨中央.

女子入繋廷孔.其孔.溺孔之端也.

其絡循陰器.合簒間.繞簒後.別繞臀.至少陰.與巨陽中絡者合.少陰上股内後廉.貫脊屬腎.與太陽起於目内眥.上額交巓上.入絡腦還出別下項.循肩髆内.侠脊抵腰中.入循膂絡腎.

其男子循莖.下至簒.與女子等.其少腹直上者.貫齊中央.上貫心入喉.上頤環脣.上繋兩目之下中央.

此生病.從少腹上.衝心而痛.不得前後.爲衝疝.

其女子不孕.癃痔遺溺乾.

督脉生病.治督脉.治在骨上.甚者在齊下營.

督脉の病たるや、脊強ばりて反折す。

督脉は、少腹に起こり、以て骨の中央を下る。

女子は入りて廷孔に繋がる。其の孔、溺孔の端なり。

其の絡は陰器を循り、簒間に合し、簒後を繞る。別れて臀を繞り、少陰に至り、巨陽の中絡と合す。少陰は股内の後廉を上り、脊を貫き腎に屬す。太陽と目の内眥に起こり、額を上り巓上に交わる。入りて腦を絡い、還り出でて別れ項を下り、肩髆の内を循り、脊を侠んで腰中に抵(あた)り、入りて膂を循り腎を絡う。

其の男子は莖を循り、下りて簒に至り、女子と等し。其の少腹より直上し、齊の中央を貫き、上りて心を貫き喉に入り、頤を上りて脣を環り、上りて兩目の下の中央に繋がる。

此れ病を生ずるは、少腹より上り、心を衝きて痛み、前後するを得ず。衝疝と爲す。

其の女子は孕(はら)まず、癃痔し遺溺し乾す。

督脉の病を生ずるは、督脉を治す。治は骨上に在り。甚だしきは、齊下の營に在り。

其上氣有音者.治其喉中央.在缺盆中者.

其病上衝喉者.治其漸.漸者.上侠頤也.

其の上氣して音有るは、其の喉の中央、缺盆の中に在る者を治す。

其の病、喉に上衝するは、其の漸(ぜん)を治す。漸なるは、上りて頤を挾むなり。

蹇膝伸不屈.治其楗.

坐而膝痛.治其機.

立而暑解.治其骸關.

膝痛.痛及拇指.治其膕.

坐而膝痛.如物隱者治其關.

膝痛不可屈伸.治其背内.

連胻若折.治陽明中兪髎.

若別.治巨陽少陰滎.

淫濼脛痠.不能久立.治少陽之維.在外上五寸.

蹇(けん)膝伸びて屈せざるは、其の楗(けん)を治す。

坐して膝痛むは、其の機を治す。

立ちて暑解するは、其の骸關を治す。

膝痛み、痛み拇指に及ぶは、其の膕を治す。

坐して膝痛むこと、物の隱れるが如きは、其の關を治す。

膝痛みて屈伸すべからずは、其の背内を治す。

胻に連なりて折れるが若きは、陽明中の兪髎を治す。

別れるが若きは、巨陽少陰の滎を治す。

淫濼(いんらく)し脛痠して久しく立つこと能わず。少陽の維、外上五寸に在るを治す。

 

輔骨上横骨下爲楗.

侠臗爲機.

膝解爲骸關.

侠膝之骨爲連骸.

骸下爲輔.

輔上爲膕.

膕上爲關.

頭横骨爲枕.

輔骨の上、横骨の下を楗と爲す。

臗を侠むを機と爲す。

膝の解を骸關と爲す。

膝の骨を侠むを連骸と爲す。

骸の下を輔と爲す。

輔の上を膕と爲す。

膕の上を關と爲す。

頭の横骨を枕と爲す。

水兪五十七穴者.尻上五行.行五.

伏菟上兩行.行五.左右各一行.行五.

踝上各一行.行六穴.

髓空.在腦後三分.在顱際鋭骨之下.一在斷基下.一在項後中.復骨下.一在脊骨上空.在風府上.

脊骨下空.在尻骨下空.

數髓空.在面侠鼻.或骨空.在口下.當兩肩.

兩髆骨空.在髆中之陽.臂骨空.在臂陽.去踝四寸.兩骨空之間.

股骨上空.在股陽.出上膝四寸.

䯒骨空.在輔骨之上端.股際骨空.在毛中動下.

尻骨空.在髀骨之後.相去四寸.

扁骨有滲理湊.無髓孔.易髓無空.

水兪五十七穴なる者は、尻上に五行、行に五。

伏菟の上に兩行。行に五。左右に各おの一行、行に五。

踝上に各おの一行、行に六穴。

髓空は、腦後三分に在りて、顱際の鋭骨の下に在り。一は斷基の下に在り。一は項の後中、復骨の下に在り。一は脊骨の上空にありて、風府の上に在り。

脊骨の下空は、尻骨の下空に在り。數髓空は、面に在りて鼻を侠む。或いは骨空の口下の兩肩に當たるに在り。

兩髆の骨空は、髆中の陽に在り。臂の骨空は、臂陽、踝を去ること四寸、兩骨空の間に在り。

股骨の上空は、股陽、膝の上を出ること四寸に在り。

䯒の骨空は、輔骨の上端に在り。股際の骨空は、毛中の動下に在り。

尻の骨空は、髀骨の後、相い去ること四寸に在り。

扁骨に滲理在りて湊(あつま)る。髓孔無く、髄を易(おさ)めて空無し。

灸寒熱之法.先灸項大椎.以年爲壯數.次灸橛骨.以年爲壯數.

視背兪陷者灸之.

擧臂肩上陷者灸之.

兩季脇之間灸之.

外踝上絶骨之端灸之.

足小指次指間灸之.

腨下陷脉灸之.

外踝後灸之.

缺盆骨上.切之堅痛如筋者.灸之.

膺中陷骨間灸之.

掌束骨下灸之.

齊下關元三寸灸之.

毛際動脉灸之.

膝下三寸分間灸之.

足陽明跗上動脉灸之.

巓上一灸之.

寒熱に灸するの法、先ず項の大椎に灸し、年を以て壯數と爲す。次いで橛骨(けつこつ)に灸し、年を以て壯數と爲す。

背兪を視て陷なる者は、これに灸す。

臂を擧げ肩上陷む者は、これに灸す。

兩季脇の間、これに灸す。

外踝の上、絶骨の端、これに灸す。

足の小指の次指の間、これに灸す。

腨下の陷脉、これに灸す。

外踝の後、これに灸す。

缺盆の骨の上、これを切して堅く痛むこと筋の如き者、これに灸す。

膺中の陷骨の間、これに灸す。

掌の束骨の下、これに灸す。

齊下關元三寸、これに灸す。

毛際の動脉、これに灸す。

膝下三寸の分間、これに灸す。

足の陽明の跗上の動脉、これに灸す。

巓上の一、これに灸す。

犬所齧之處.灸之三壯.即以犬傷病法灸之.

凡當灸二十九處.

傷食灸之.不已者.必視其經之過於陽者.數刺其兪而藥之.

犬の齧(か)む所の處、これに灸すること三壯。即ち犬傷病法を以て、これに灸す。

凡(すべ)て當に二十九處に灸すべ。

傷食、これに灸し、已えざる者は、必ず其の經の陽にこれ過ぐるを視て、數しば其の兪を刺してこれに薬す。

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